タイは、日系企業や日本人投資家が海外でビジネスチャンスを得るに伴って、大変人気のある目的地として知られています。2022年時点で、タイは日本の事業拠点総数において、経済大国である中国や米国に次ぐ第3位にランクインしています。タイのGDPはランキング上の他国と比較してもかなり低く(中国の約36分の1、米国の約56分の1、インドの約7分の1)、人口も少ないにもかかわらず、タイは依然として日系企業にとって事業拡大の魅力的な拠点の一つであり、その人気度は年々高まり続けています。

初めに、タイの大きな魅力の一つは日本との地理的な距離にあり、直行便で約6時半間で着ける、大変利便性のある場所にあります。これにより、両国のオフィス間の従業員の移動や、必要に応じた商品の輸送がより容易になります。加えて、両国の時差はわずか2時間であるため、日本とタイの従業員間のオンライン会議や移動時の時差ボケの影響や業務上の負担がヨーロッパや米国など時差が10時間以上にも及ぶ場合がある国より大きく軽減されています。また言語に関しても、日本とタイはどちらも独自の言語があり英語は第一言語ではありませんが、ビジネスシーンでは広く使われており、両国間の円滑なコミュニケーションを可能にしています。
また日系企業がタイを好む傾向にあるもう一つの理由として、タイ国内の移動の安易性が挙げられます。米国やヨーロッパ諸国など、主な事業拠点として栄えている都市が複数存在する国々と異なり、タイでは首都バンコクに企業が大変集中しています。そのためタイ国内での出張や他社との連携はバンコク市内で済むことが多く、国内移動の手間やコストを大きく省きます。まとめると、タイ自体が比較的小さな国であることやバンコクに多くの事業拠点が集中していることから、近場のみでほとんどの必要な移動が済ませられる、というメリットが日本人を含む外国人投資家から注目されています。
また、タイ自体が、長年にわたり日本製品やサービスに対する需要が極めて高いことが特徴的です。代表的な例としては、日本食レストラン、おもちゃ屋、美容製品などが挙げられ、これらはタイ国内で安定した収益を継続的に生み出しています。
日本や欧米諸国と比較してタイは、人件費や賃料などが安いため比較的低コストかつ低リスクで事業を展開できることから、国際的なビジネス拠点として高く評価されています。加えて、タイは極めて強固な国際関係を築いており、シンガポールやインドネシアなど、ビジネス界や不動産業界など、様々な面で急速に成長中のASEAN諸国へのアクセスも良好です。
バンコクに位置する2つのアジアのハブ空港や陸路を使い、タイから海外への移動手段は非常に豊富な上、タイの輸出入時の税金も他のASEAN諸国と比較して比較的低水準から中程度に抑えられています。一般的に、タイはベトナムやインドネシアよりは安いものの、シンガポールよりは若干割高であり、輸出に対する関税および付加価値税(VAT)は、基本0%です。また、輸入に対する関税は品目によって0~80%の範囲で変動し、付加価値税は一般的に7%の固定比率となっています。これにより、タイは海外市場、特にASEAN市場へのアクセスが既に強化されている上、税率が比較的低いことから中国、米国、インドなどの経済大国を上回るメリットが数多くあります。
さらに、タイに拠点を構えることで、先進的かつ近代的な製造拠点としての機能も期待できます。例えば、自動車製造業であれば、アジア各地から集まる自動車部品の集積拠点や中継拠点として、中国製のAIシステム、韓国製のエンジン、ベトナム製の車体、シンガポール発のブランドなど、各国の技術や製品を組み込んだ製造事業を可能にする立地の良さを誇ります。
タイ経済にを活性化させ、海外からの投資を誘致するため、タイは現在政府が運営する機関として、BOI(投資委員会)を設けています。BOIは、外国人投資家向けにさまざまな優遇措置を導入しており、税制上の優遇措置に加え、事業形態や業種、その他条件応じた外国人投資家により最大100%の事業所有権が認められることなどが含まれています。これらは海外企業や投資家のタイ市場への進出を容易にするとともに、タイを拠点とする新事業の設立を促進しています。
また、日本とタイの経済関係は親密であり、BOIは2025年の11月にも、JETROやSMBCといった日本の金融機関と共同で「タイ・日本投資フォーラム」を主催しました。BOIは、会見で日本がタイにとって「長期的な投資家(経済パートナー)」として果たす重要な役割を強調するとともに、同フォーラムには日系企業から約450名が参加しました。

タイでの事業展開に強い関心を示している日本企業のうち、特に人気のある分野の一つが、EV、自動車、機械部品などの自動車産業です。タイでは自動車部品(乗用車、バイクなど)の需要が高いため、多くの日本企業が、国際的な提携や市場開拓を目的としてタイ市場に投資をしています。2025年の日本企業による自動車分野への投資額は283億バーツ(約1,360億円)に達しており、日本企業にとって自動車産業が重要な投資先であることを示しています。
加えて、2023年10月時点では、2,348社の日本企業(タイに進出している日本企業の総数の約50%)が自動車産業に関与しています。
また、近年日系企業の進出が増加傾向にある業種として、エレクトロニクス(AI・ソフトウェア)産業も挙げられます。2025年では、エレクトロニクス産業への日本企業による総投資額は243億バーツ(約1,160億円)に達し、前年比で大幅に増加した他、自動車産業にほぼ迫る非常に高い水準となりました。
同じく2025年では、タイ国内のエレクトロニクス産業の市場規模は2,335.8億バーツ(約1兆1,210億円)に達しており、今後も日系企業のタイのデジタル産業に対する関心や投資額も増加すると見込まれています。
自動車やエレクトロニクス産業に次いで、化学・石油化学産業は、日本からタイへのFDI(海外直接投資)の額や規模が大きいことで前々から高く認知されています。
2023年時点で、海外からタイの化学産業に対する総投資額は、363.1億バーツ(1740億円)でした。その中で、日本企業によるタイの化学産業に対する投資額は215.5億バーツ(1030億円)であり、非常に高い割合を占めています。このことから、日本企業がタイの化学産業において海外投資主として大きな役割を担っているかが伺えます。また、この驚異的な水準や投資規模は、日本企業が今後も長期にわたり化学産業に投資を継続する可能性が高いことを示唆しています。
以下は、2023年時点での業種別の海外直接投資額(日本円で記載)について、タイの主要投資主である中国と日本、そして世界からの総投資額を比較した表です。

タイはビジネスに適した環境が整えられていますが、海外進出は依然として難易度が高く、特に進出経験の少ない中小企業には進出時に多くの課題に直面すると考えられます。主な懸念点の一つとして、タイに事業拠点を構える際の長期的な運営コストが挙げられます。家賃、人件費(給与)、税金などは基本的にすべて日本よりも安価で抑えられることが多いものの、特に中小企業だと負担の大きい出費となります。 また、タイという新たな環境下での会社経営は決して一筋縄ではいかず、タイでの事業を安定させ利益を継続的に挙げられるまではかなりの時間を要する可能性があります。そのため、最初の数年間では費用が売上を上回ることも珍しくなく、企業の海外進出時には、進出後の数年で発生しうるコストを完全に賄えるほどの多額の予算が必要となる可能性があります。
さらに、タイにおいての言語の壁や、法的規制などの日本とは異なる複雑な規制環境やコミュニケーション面も課題となり得ます。比較的規模の大きい企業であれば、タイ語や英語で業務を遂行できる通訳者やスタッフを用意している他、場合によっては専属の弁護士を擁していることもあります。しかし、タイ語や英語でのコミュニケーションや法的手続きを行うことが難しい中小企業や個人は、外部の業者に委託する必要があり、追加のコストも発生します。 また重要な点として、日本と同様、タイの第一言語はタイ語のため一部の中小企業や弁護士は、日本語のみならず英語での業務も受け付けていない可能性があり、日本語と英語の両面でコミュニケーションの取れるタイの企業はかなり限定されています。
タイで長期的に事業を展開する場合、前章で述べたように、人件費の管理は大きな経営課題の一つとして挙げられます。解決策として、AIシステムや自動化の活用を進め、従業員を代替することを人件費の削減方法の一つとして検討すべき手段です。 これにより、従業員の業務負担の軽減の他、生産性の向上や労働法などの雇用に対する規制による制約の受けにくさがメリットとしてあげられます。
加えて、タイは深センや香港など、世界有数のAI生産拠点や先進的でかつ業界最安値でAIシステムの開発や販売を行う中国と非常に近い地理的位置にあることから、タイの企業にとって中国製のAIシステムを活用する企業は少なくありません。しかし、AIシステムの導入にあたり、タイ王国の法律に基づく法的規制やデータセキュリティなどのリスクも総合的に考慮することは必要です。また、企業が本国からタイへ従業員を異動させる方が容易であると判断した場合、関連する就労許可やビザを取得するとともに、企業および従業員が一定の要件を満たすことで、その異動を行うことも可能です。
更に、言語の壁やタイ独自の法的制約の懸念に関しても、英語、タイ語、そして必要に応じて日本語でのコミュニケーションや法的効力のある資料が作成できるタイの弁護士を通じて、解決することができます。タイ国内で日本語での対応が可能な弁護士事務所やその他会計士事務所等の機関は非常に限られているものの、言語を理解し、問題なく意思疎通を図れることは、海外進出において必要不可欠です。タイ現地の信頼できる法律事務所に手続きを委託したり、専門的な助言を受けたりすることで、不慣れな法律や規制に関する誤解や手続き上のミスによって生じるリスクや更なるコストを軽減できます。また、企業は法令遵守を確保しながら、経営管理や事業運営により注力することが可能となります。